RimWorld - レビュー

小さな成功と平凡な日々、そして破滅についての物語

物語を無尽蔵に生み出す創造のエンジン『RimWorld』レビュー
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SFコロニーシム『RimWorld』は不運な遭難者が荒野の惑星「リムワールド」を開拓し、アルパカとジャガイモ畑を守りぬき、宇宙船を手にして星々の海に帰るスペースオペラ西部劇である。うまくいけばの話だが。荒れ地に五体を投げ打ち、星々を眺めて望郷にひたる彼らと、喜びや悲しみを分かち合うサバイバルドラマである。明日死ぬことになろうとも。

君のゲーム歴に誇らしいトロフィーを飾りたいならば、『RimWorld』という荒野を味わうべきだ。真の挑戦がなんたるかを痛感すると請け負おう。宇宙船を自らの手で再建するなら、ウワサを聞きつけた略奪団との徹底抗戦を強いられる。難破した宇宙船までの大陸横断に挑むなら、万全を期してもまだ足りない。

本作は失敗を楽しむゲームである。それも生半可なミスではなく、しかるべき手順を踏んだ極上の結末を。調理レベルの低さが招いた食中毒。マッファロー(マフっと毛長いバッファロー)の暴走。病人と怪我人をかかえ村の修繕はままならない。資材は枯渇し、食料は腐敗し、医薬品は底をつく。それらすべてが破滅への伏線となる。

メロドラマのようにトラブルとカタルシスを繰り返す。そこには、すこしでもよく生きようとした人々の姿があった。幼稚園の先生、宇宙戦艦の艦長、元スパイの美人娼婦も、ここでは全員が主役だ。プレイヤーは彼ら村人の総意となり、皆で再び朝陽を迎えるべく一日を導いていく。そしてさらなる天災・人災に見舞われ、あとに無人の荒野を残す。

 

ほんのささいな成功もかけがえのないものとなる。たとえ惑星破壊兵器があと数年に迫ろうとも、死亡時に爆発する首輪をつながれていても、何事もなく過ぎ去る一日はそれだけでいとおしい。ゆえにゲーム敗北の悲しみは大きい。失った過程ではなく、服を着たこけしに見える彼らとの死別を悲しむ、そのとき。プレイヤーの心は『RimWorld』とともにある。

見渡す限り新天地、広がる夢の方眼紙

『RimWorld』は正式リリース前で100万本販売を達成したビッグタイトルだ―― これは2013年10月Kickstarter開始から2018年10月17日正式リリースの、5年間にわたる販売実績である(ローンチトレーラー発表)。すでにPCゲーマーの多くがプレイ済みの、2010年代「中期」を代表するPCゲームといえよう。本稿は正式リリース版(バージョン1.0)をもって批評するが、先に、未プレイの読者へ向けたゲーム概要を記しておく。

生き残りをかけた『シムシティ』

ジャンル「コロニーシム」は都市設計ゲームにサバイバル要素を加えた、経営シミュレーションのサブジャンルである。生き残りをかけた『シムシティ』だと思えばよい。本作中の村人は自律行動をとる存在で、プレイヤーが描いた設計図に従い建設する。そしてサバイバルだから食事や睡眠を要し、負傷や病気にかかり、衣食住や隣人に不満を漏らす。あまりに厳しい環境で心が壊れることもある。

情報量の多さに圧倒されるが、大体のことは村人がやってくれる。プレイヤーの操作は主に次のふたつとなる。画面下部のメニュータブに並ぶ「アーキテクト」と「優先順位」だ。アーキテクトはその名のとおり設計である。壁や床の建設、資材置場や農地の指定、採掘・伐採・狩猟の指示など、内容は多岐にわたる。本作の建物はすべて平屋なので、ドアや家具の配置といった間取りを描けばよい。トップダウンビューと四角マスを採用しており、方眼紙のような感触で図面を引ける。

 

優先順位は村人の行動を決定する。ここには先のアーキテクトで引いた図面の実行だけでなく、治療や栽培、調理といったルーチンワークも含まれる。リストの項目はこれまた多岐にわたり、行動の多くは村人の技能レベルを参照する。レベルが高いと安全・確実・迅速に仕事をこなせる。そして仕上がりは高品質となる。村人の才能を活かせるように仕事の優先順位をつけよう。なにしろ技能レベルが低いと、資材ロスや収穫量減少、食中毒を招いてしまうのだ。

 

上記の内容とサバイバル生活の基礎は丁寧なチュートリアルで学べる。当然だがクリアまで導いてはもらえない。コロニーシムの醍醐味は試行錯誤にあり、初見殺しの大災害が多い本作も当てはまる。しばらくはトライアルアンドエラーの日々がつづくだろう。ゲーム敗北の経験をいかして設計を考えよう。根気強く挑みつづけ、最初の1年を乗り越えてほしい。

経営シミュレーションのオールインワンパッケージ

本作は数多くのシミュレーションジャンルからプレイフィールを集め、それらを滑らかに接合した。コアコンセプトはフォロー元『Dwarf Fortress』のSF版で、各構成要素はジャンル他作品で見慣れたものだが、5年にわたるアーリーアクセスで練磨を徹底した。いびつな傷や手触りの違和感はひとつもない。全体が総和を超え、独自のプレイフィールに到達している。

まずは都市設計。村人はリアルタイムで行動するので、移動時間が短いほど仕事効率はあがる。人や物の移動経路やその頻度を調整し、村の機能性を高めよう。これは箱庭ゲームの様式がそのまま当てはまる。かしこい設計がサバイバルの成果に直結する仕組みだ。

 

リアルタイム性は戦闘でも適用され、しかもそのディティールが深い。射撃武器は距離と遮蔽物で命中率が変動し、流れ弾は建物や味方を傷つける。接触すれば乱闘になり近接武器が優位となる。村人を徴兵すればプレイヤーの指示のみを受け付け、タクティカルコンバットの操作系になる。もちろん都市設計でキルゾーンをつくるタワーディフェンスの要素もある。

 

村の外に目を向けると残酷な事実に気付く。フィールドからとれる資材には希少性があるのだ。電化製品に要するスチールやコンポーネントは枯渇する。医薬品や先進機器は目にすることすら珍しい。宇宙船の材料にいたっては確保するだけでも一大事業となる。フィールド外のワールドマップに点在する隣村へビジネスにいこう。その内容が商業的であれ暴力的であれ、旅路に保存食や荷馬はかかせない。

ビジネスには特産品が必要となる。土地と村人の才能を組み合わせて価値を生み出すのだ。手先の器用な者を裁縫や工作にあて、話術にたけた者を商人にする。人材管理、タスク割り当てと並行し、材料の安定供給も考えねばならない。ほかに取り柄がないときは暴力も立派な特産品だ。資材枯渇の究極的な解決法として、新天地への引っ越しもできる。

 

経営シミュレーションのオールインワンパッケージ

このように『RimWorld』のサバイバルは階層をなしている。衣食住の基本的なレベルから始まり、凶悪な略奪団との戦闘を経て、資材枯渇と向き合わねばならない。ただ生きるだけのサバイバルではジリ貧となるため、つねに効率を求められる。アーキテクトで機能性の高い村をつくり、優先順位で村人の特技を引き出そう。こうして、プレイングの上達でサバイバルがビジネスへ拡大する、経営シミュレーションのオールインワンパッケージを実現した。プレイヤーにとって励みがいのある効率化だが、その戦いに村人たちはついていけるだろうか。サバイバルとビジネスに板挟みされたヒューマンドラマの幕が開ける。

しわ寄せとそねみのヒューマンドラマ

プレイヤーは村人を完全にコントロールできない。これがサバイバルをおもしろくする。アーキテクトと優先順位ができるのは計画と管理までだ。実行は村人の手に頼るしかない。計画の完遂を見守るあいだは、小さな共同体社会を眺めて過ごすことになり、さまざまなトラブルを目にしてしまうだろう。日常を観察して原因を調べる。根本解決が望めないときは暫定処置を考える。こうした創意工夫が村人たちのドラマとなる。

トラブル発生のしかけは効率化そのものにある。村人を特定の仕事に専念させる「専門化」で、効率と引き替えに冗長性を失うのだ。料理番の不在がわかりやすい。代わりの者に調理の仕事を割り振っていなければ、村人は生の食材を口にして飢えをしのぎ、食中毒やストレスなど新たなトラブルの引き金となる。効率化だけでなく、村人の健康も気にかけよう。

 

村人の健康は身体と心境の2種類ある。病気や怪我といった身体の不調は、ベッドで手厚い看護を受ければ回復する。一方、心境の不調は対処が難しい。気難しく敏感なわりには、ある程度の不遇に耐えるので、深刻な事態へ陥ってしまうのだ。幸せな出来事と惨めな暮らしの総和がマイナスならば、心境は悪化しつづける。かんしゃく、口論、ケンカなど、さまざまなトラブルを引き起こす。心境がゼロ以下で精神崩壊し、立ち直るまでプレイヤーの操作をまったく受け付けない。個人の命だけでなく、冗長性が低い村の危機も招く。

広々とした個室、ぜいたくな食事、テレビ視聴など――見上げればキリがない

要点は、その心境を患う要素が数多い点だ。ボロボロの衣服。長時間の空腹や生の食材。野宿や冷暖房の不備。それらサバイバル生活のすべてが村人をさいなみつづける。さらに、雨でずぶぬれになった。人の死体を目にした。明かりがない。といった、周囲の環境にリアルタイムで反応する。衣食住に娯楽をそろえてようやく普通程度。これでは、ペットや身内の死去、痛みといった突発の不幸・不快に耐えられない。傷心を埋め合わせるには、広々とした個室、ぜいたくな食事、テレビ視聴など――見上げればキリがない。そのうえ、村人の個性がかみあわず心境を害するケースもある。待遇の格差にいらだつ者や、夜行性の者、真冬でも全裸でありたいヌーディスト。ロマンスを夢見てフラれ、傷心する男女までいる。

 

村人の要望は富の確保をせかし、フィールドの資材枯渇を招き、ビジネスや新天地移転の引き金となる。もちろん村人の要望をすべて完璧に満たす必要はない。ルーチンワークに冗長性があるなら心境が低くても問題ない。困らないならトラブル解決を急がずともよく、村人と向き合うドラマも生まれない。この安定状況を揺さぶるのが、本作の難度調整システム「AIストーリーテラー」である。

物語の主導権争い

本作の魅力はプレイごとに自動生成される物語にある。そのひとつ、難度調整システム「AIストーリーテラー」は、ゲーム進捗に応じたイベントのトリガーを担当する。もっとも印象強いのは略奪団襲撃だが、ほかにもいろいろある。暴風雨・太陽フレア・死の灰といった悪天候、村人や作物の病気、野生動物の暴走など、不運にはことかかない。また、リスクとリワードがある任務、漂流物や交易商の来訪といった、プラスのイベントも発生させる。

 

表面上はAIストーリーテラーとプレイヤーの対決だ。プレイヤーは数々の不運に耐えしのぎ、メロドラマ脚本家が支配する惑星から脱出できれば勝利、という構図に見える。しかし両者ともにゲームの完全な制御を得ていない。ここがポイントだ。AIストーリーテラーはイベントで村を揺さぶるだけである。プレイヤーはアーキテクトと優先順位しかできない。

村人自身に「トラブルの伏線」を書き加える余白がある

イベントの連続を物語に仕立てるギミックは、惑星リムワールド自体にある。フィールド上のあらゆるオブジェクトがステータスをもち、ゲームに多少の影響を及ぼすのだ。いうまでもなく、サバイバルの主役である村人は圧倒的な情報量をもつ。銃撃戦の負傷が完治しても吹き飛んだ手足は戻らない。損傷した衣服は心境の悪化だけでなく、保温性も低下する。屋外に放置した資材は劣化し作業の失敗を招く。腐敗した死体を食肉にすれば食中毒のリスクとなる。村人自身に「トラブルの伏線」を書き加える余白があるのだ。

 

村人・AIストーリーテラー・プレイヤーのそれぞれがゲームに関与する。ここにゲームの主導権争いが発生し、期待に応えつつも予測できない結果を生む。村人のいきさつを書き込んだステータスが伏線を張る。AIストーリーテラーのイベントで村は不安定な状況に陥る。こうして伏線はトラブルとなり、ヒューマンドラマが始まるのだ。プレイヤーの対処が遅れたなら、物語はしかるべき結末へ転がり始める。

以上が本作の魅力、物語を自動生成する仕組みである。これが正しく機能するには、上記3者のパワーバランスが同じでなければならない。低難度プレイではプレイヤーがゲームの主導権を握ってしまい、ドラマのキッカケとなるトラブルは起き得ない。それでは、プレイヤーの力量に応じた難度でプレイしたなら? ドラマは次々と生まれ、そしてゲーム敗北と隣り合わせになる。つまりは失敗を楽しむゲームだ。コロニーシムの試行錯誤と物語の自動生成は「失敗」で結びつき、無尽蔵のリプレアビリティへ昇華した。

ただいま、RimWorld

経営シミュレーションのオールインワンパッケージ。それに加え、計画完了を眺めるあいだは小さな共同体社会のヒューマンドラマを楽しめる。過去の成功と失敗が伏線となり、イベントの連続は物語のタペストリーを紡ぎあげる。その出来映えは上々だ。なぜならプレイヤー自身も関わっているのだから。村人、AIストーリーテラー、そしてプレイヤーがおりなす即興劇――これが『RimWorld』の正体である。

 

村人、AIストーリーテラー、そしてプレイヤーがおりなす即興劇――これが『RimWorld』の正体

発売前に100万本販売を達成したとおり評判は言うまでもない本作だが、実のところ客を選ぶゲームだ。本稿スクリーンショットのとおり、見栄えは実用主義めいており映像体験の感動は薄い。また、物語体験も村人が“管理者”へ感謝のお手紙を書くことはない。プレイヤーが積極的に思いをはせなくてはならず、ゲーム世界への感情移入が不得手なゲーマーにはちくとつらい。楽しみやすさ、親しみやすさでは後続のコロニーシムが勝る。今年発売したゲームに絞っても『Frostpunk』があり、現在アーリーアクセスの『Oxygen Not Included』に目移りしてしまう。

5年にわたるアーリーアクセスも目移りを招く要因のひとつだ。発売後のバージョンアップが日常となった現代ゲームシーンにおいて、完成してからの発売は希有である。ルールセットが複雑なシミュレーションジャンルでは、偉業と呼ぶにふさわしい。しかし、驚異的な販売本数と、メディア・ブログのプレビューやリプレイ小説が、ある事態を招いた。高難度コロニーシムは広く認知され、本作自身もフォロワー作を生み出し、正式リリースを迎える前に見慣れたものとなったのである。

 

独自性や目新しさと引き替えに、物語を自動生成するコロニーシムは完成した。これこそが本作を唯一無二のものにする。批評に値するエポックだ。ゆえに本稿は辺境の惑星リムワールドの出来映えのみを問い、それは以上で記したとおりである。心の中に豊かなSF世界をもつゲーマーの想像力を、すべて受けいれる荒野の大地は、あそこにしかない。だから筆者を含む『RimWorld』ファンは、アーリーアクセス中に惑星脱出していても、いまいちどあの惑星に不時着している。

長所

  • 経営シムのオールインワンパッケージ
  • 存在感ある村人
  • プレイヤーを巻き込んだ物語の自動生成
  • 愉快で学びがいのある試行錯誤
  • 完成したローンチバージョン
  • 意味のある複雑さ
  • 無尽蔵のリプレアビリティ

短所

  • あらゆるシーンで想像力を要する
  • わずかに未翻訳の文章を残す

総評

これは物語を無尽蔵に生み出すコロニーシムだ。村人・AIストーリーテラー・プレイヤーの各々がゲームの主導権を奪い合い、喜びと悲しみのタペストリーを編み上げる。そこではいくつもの伏線が同時進行し、トラブルとカタルシスの満ち引きは波乱の大海原となろう。物語は紆余曲折の結末を迎えるが、SFドラマ『RimWorld』に最終回はない。君が望む限り毎回がシーズンプレミアである。

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RimWorld

Ludeon Studios | 2018年10月17日
  • Platform / Topic
  • PC

物語を無尽蔵に生み出す創造のエンジン『RimWorld』レビュー

9
Amazing
RimWorld is a sci-fi colony sim driven by an intelligent AI storyteller. The game generates stories by simulating psychology, ecology, gunplay, melee combat, climate, biomes, diplomacy, interpersonal relationships, art, medicine, trade, and more.
RimWorld
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